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中国の不動産リスク

 中国の不動産市場はバブル状態になっていましたが、
 近年、不況に陥っており、金融破綻に繋がることが懸念されています。
 今回のメルマガでは、中国の不動産リスクについてとりあげます。

 

不動産バブルが生まれた経緯

 中国の不動産バブルが生まれたきっかけは、1998年の住宅制度改革です。
 中国政府は住宅を商品として売買できるようにしました。
 購入や開発を促進し、不動産開発企業が相次いで設立されました。
 経済の高度成長も重なり、「不動産は必ず値上がりする」という
 不動産神話が生まれ、中国人による自宅購入や投機がブームとなりました。

 中国では、新築マンションの購入契約時に、購入者が銀行ローンを組んで
 購入代金全額を「前受け金」として支払うことが一般化していました。
 デベロッパーは、マンションが建築中にも関わらず引き渡し前に
 資金を得られるため、新たなマンション建設への投資が促進されました。

 国内総生産に占める不動産関連産業の割合は、
 1990年代は1割未満でしたが、3割まで拡大したと言われています。

 

不動産開発企業の資金繰り悪化の背景

 不動産バブル崩壊に伴う金融危機を避けるために、
 2020年に、習近平指導部が加熱抑制に舵を切り、
 不動産開発企業に3つのレッドライン(三道紅線)を設定しました。
 その内容は次の通りです。
  1)(前受け金控除後)総資産に対する総負債の比率が70%を上回らない
  2)自己資本に対する負債比率が100%を上回らない
  3)保有現金に対する短期負債の比率が100%を上回らない
 3つのレッドラインを同時に超えた企業は有利子負債を増やせなくなります。

 この3つのレッドラインの導入によって、
 不動産開発企業の資金繰りは悪化しました。
 上場する不動産会社だけでも30社以上が債務不履行になりました。
 建設途中で工事が止まるマンションが続出し、
 その規模は2022年6月時点で231平方キロメートル、
 東京都の一割強の面積に相当します。

 中国の不動産開発企業の中で2022年の売上では
 1位が碧桂園(カントリーガーデン)、
 2位が恒大集団(エバ―グランデ)ですが、
 ともに債務額が大きく、債務不履行状態に陥っています。

 碧桂園は2022年末に債務が1兆4,350億元(約30兆円)に達しています。
 2023年10月にドル建て債券がデフォルトと判断されたと報じられました。

 恒大集団は2022年末に債務が2兆4,374億元(約50兆円)に達しています。
 2021年12月にドル建て債券の債務不履行(デフォルト)状態に陥ったと
 報じられ、2023年8月に米連邦破産法第15条の適用を申請しました。
 恒大集団の創業者であり代表取締役会長の許家印は
 2023年9月に警察当局に連行され、犯罪を犯した疑いで
 法令に基づく処分を受けたと発表されました。

 このような巨大な債務を抱える企業が倒産した場合は、
 多数の企業の連鎖倒産が起こり、金融システムが不安定化し、
 世界的な金融不安につながる可能性も懸念されます。
 そのため、政府が何らかの支援に乗り出す可能性もあります。

 

中国政府の対策

 中国政府は不動産開発企業の資金繰り悪化・不動産不況への対策として、
 2022年11月11日に不動産市場への金融面の総合的支援策を発表し、
 「3つのレッドライン」を事実上撤廃しました。
  ・発表の6ヵ月以内(後に2024年末まで延長)に不動産開発企業が
   返済期限を迎える融資の返済を1年延ばすよう銀行に要求。
  ・政策銀行による住宅引き渡しを保証するための特別融資の提供や
   金融機関の関連融資による支援を奨励。
  ・短期的資金不足に陥った不動産開発企業の社債発行を支援。
  ・不動産開発企業どうしの合併買収を重点的に支援。
  ・住宅購入者の支援として、地方政府に住宅ローン金利の下限や
   頭金比率の引き下げを要求。

 また、住宅需要を促進するため、
 2023年8月に住宅ローン関連規制緩和措置を発表しました。
  ・住宅買い替えの際の頭金比率を下げ、有利な金利の住宅ローンが
   適用されるようにした。
  ・住宅購入制限がある都市の住宅と2件目の住宅の
   頭金比率を引き下げた。
  ・2件目の住宅の住宅ローン金利を引き下げた。
  ・居住用住宅を対象とする既存の住宅ローンの金利引き下げと
   借り換えを可能にした。

 また、家庭ごとに購入できる住宅数の制限を一部の都市で緩和しました。

  

長引く住宅市場の低迷

 政府がこのような対策を打ち出したにも関わらず、
 住宅市場の低迷は続いています。中国国家統計局によると、
 住宅開発投資は2022年は前年比マイナス9.5%、
 2023年1月~9月は前年比マイナス8.4%と下落が続いています。
 住宅販売面積も2022年は前年比マイナス26.8%、
 2023年1月~9月は前年比マイナス6.3%と下落が続いています。

 今後も住宅市場の低迷は長引くと予想されます。その理由は次の通りです。
 ・住宅価格がまだ割高で、合理的水準に戻るまで下落余地が大きいこと。
 ・住宅の在庫が増え続けており、その消化に時間がかかること。
 ・すでに投機的資金が住宅市場から引き上げられていること。
 ・住宅の購入者となる生産年齢人口が減少していること。

 

世界的な金融危機のリスクと日本への影響は?

 不動産開発企業の資金繰り悪化の最大の懸念は、
 世界的な金融危機に繋がるかどうかです。

 この点について、不良債権が一時的に増加したとしても、
 国有資産管理会社による処理や、銀行への資金投入など
 政府による強力な管理で、金融システムの不安は抑えられる
 という期待があります。
 また、中国の主要銀行がほとんど国有であり、
 いざというときには政府が救済するため、
 銀行の倒産による金融危機の発生は防がれるのではないか、
 という見方があります。

 一方で、上記のように不動産市場の低迷は長引くことが予想されます。
 また、生産年齢人口の減少と、高齢化の加速に加えて、
 不動産不況が重しとなることから、経済成長の鈍化が避けられません。

 さらに、米国も不動産不況や金融危機の火種を抱えており、
 これが世界中に波及した場合は、中国にも連鎖する可能性があります。
 世界的な金融危機には至らなくても、
 株価や不動産価格の調整リスクが高まる可能性があります。

 中国の投資家にとって、これまで日本の不動産市場は
 資本の退避先として選ばれ、投資対象となってきました。
 しかし、今後は価格調整リスクがあることも
 想定しておく方がよいかもしれません。

 

【参考】

 ・独立行政法人経済産業研究所 2023年11月2日
  「中国における住宅バブルの崩壊―景気回復の重荷に―(関志雄)」
  https://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/231102ssqs.html
 ・日経電子版 2023年10月3日
  「中国の不動産問題、どこまで危機的か(大槻奈那)」
  https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB222KM0S3A920C2000000/
 ・日本政策投資銀行 DBJ Research No.404 2023年9月29日
  「調整が続く中国不動産市場と経済への影響」
  https://www.dbj.jp/topics/investigate/2023/html/20230929_204506.html
 ・三菱UFJリサーチ&コンサルティング 2023年11月17日
  中国経済レポートNo.79 「人口減少がもたらす中国経済の「日本化」」
  https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2023/11/china_231117_01.pdf
 ・President Online 2023年12月11日
  「ついに世界中で「不動産バブル崩壊」が始まった
  …「中国の不動産破綻」が日米欧にも波及する根本原因
  https://president.jp/articles/-/76504?page=1

 

この原稿は名城企画株式会社が発行する「名古屋・東海収益不動産NAVIメールマガジン」の
2024年1月22日発行分の転載です。