
今年の夏は酷暑となり、室内でも熱中症になる人が続出しました。
9月に入ってからも厳しい残暑が続いています。
地球温暖化の影響で、今後もこのような酷暑が続くと予想されます。
建物の暑さ対策が、今まで以上に重要になってきます。
建物の暑さ対策をする上で、改善の余地が大きい部分があります。
それは遮熱対策です。
多くの建物は「断熱」対策はしていても、
「遮熱」対策は十分にされていない場合が多いと思われます。
今回は遮熱対策についてご紹介します。
輻射とは?
熱が伝わる方法は、伝導、対流、輻射の3つがあります。
「伝導」は、カイロを手に持って温もりを感じたり、
フライパンで加熱料理をするように、
熱があるものに直接触れて熱が伝わることです。
断熱とは、主に伝導による温度変化を防ぐために行われます。
「対流」は、エアコンのように空気を介して熱が伝わるものです。
「輻射」は、赤外線(電磁波)の光エネルギーが物質に照射され、
物質の原子やイオンが振動し、熱エネルギーに変換されて
熱が発生するものです。
ストーブ、ヒーター、こたつ、暖炉などがこれにあたります。
遮熱は、この輻射による温度変化を防ぐものです。
太陽によって建物の温度が上昇するのも「輻射」です。
地球は太陽と離れており、その間には空気もないため、
伝導や対流は起こりません。
太陽から発せられる赤外線(電磁波)が地球に届き、
屋根や壁にあたって温められることで、室内の温度も上がるのです。
建物内を通り抜ける熱の割合として、
輻射が75%、対流が20%、伝導が5%と言われています(※)。
※多くの遮熱シートの事業者が紹介しているデータであり、
出典はペンシルバニア州立大学の調査とされていますが、
原典は確認できておりません。
そのため、夏の暑さ対策においては、
輻射を防ぐ対策である「遮熱」が重要となります。
なお、通常の断熱材は伝導を防ぐ効果がありますが、
輻射には効果がなく、
場合によっては、輻射によって断熱材に熱が蓄積することさえあります。
主な遮熱対策としては、屋根や壁に遮熱シートを施工するか、
屋根や壁に遮熱塗装をする方法が挙げられます。
遮熱シート
夏に自動車を屋外に駐車するときは、
日射を遮るために窓にアルミ製の反射シートを貼ることがあります。
アルミニウムは赤外線(電磁波)を反射する性質に優れており、
純度99.8%以上のアルミニウムは赤外線の90%以上を反射します。
これと同じように、住宅にもアルミ製の遮熱シートを施工します。
アルミ製の遮熱シートを屋根や屋根裏、壁、床下に貼り付けることで、
輻射を防ぐことができます。
建物の新築時、あるいは屋根や壁のリフォームによって
施工することになります。
あわせて、遮熱シートの下に断熱材を設置すれば、
屋根の熱による伝導の気温上昇を防ぐことができ、
また冬場には伝導による室内の熱の放出を防ぐこともできます。
遮熱シートがあることで、断熱材の蓄熱を防ぐこともできます。
冬場の日中は、遮熱シートが太陽からの輻射を防ぐため、
日照による室内温度の上昇が抑えられますが、
遮熱シートは室内からの輻射による熱の放出を防ぐため、
保温効果もあり、寒さ対策としても有効です。
なお、一般的な遮熱材はアルミ製のため、
結露しやすいことがネックです。
結露対策がされている遮熱材を使うか、
施工時には通気などの結露対策を万全にする必要があります。
遮熱シートの効果に関する実験の例をご紹介します。
株式会社ライフテックと静岡大学工学部 中山顕教授が
平成24年8月に行った実験では、
住宅を想定した瓦葺きの同じ大きさの2つの建物について、
遮熱材「サーモバリア」を設置した建物と、
設置しない建物とで、真夏に屋根下の温度差を比較しました。
その結果、遮熱材を施工した方が気温が最大で9度低く、
エアコンの消費電力に換算すると18%の電力の削減ができることが
示されました。
遮熱塗装
遮熱塗装は、既存の建物でも、大掛かりなリフォームをしなくても
比較的容易に屋根や壁に塗装することが可能です。
多くのメーカーが多くの種類の遮熱塗料を発売していますが、
遮熱効果、塗料の耐久性、遮熱効果の耐久性、色、価格が、
選択する際の主な要素と言えます。
遮熱効果が高くても、塗料の耐久性が高くなければ、
すぐに剥離・摩耗してしまい、塗りなおす必要があります。
塗料の耐久性が高くても、遮熱効果の耐久性が高くなければ、
すぐに遮熱効果が落ちてしまいます。
色については一般に白っぽい方が遮熱効果が高くなります。
遮熱塗装をする場所については、
夏季に太陽の日射を最も受ける屋根は水平に近いため、
遮熱塗装が有効です。
壁面については、夏季の太陽の角度を考慮すると、
実は南壁はそれほど日射を受けません。
一方、気温の高い午後・夕方に日射を受ける西壁は、
水平の1/3程度、南壁の2倍以上の日射を受けるため、
遮熱塗装をする効果があると言えます。
遮熱塗装の効果に関する実験の例をご紹介します。
日本ペイントが愛知工場で平成21年に行った実験によれば、
プレハブの建物に日本ペイントの遮熱塗装をした場合と
一般の塗装をした場合で、室内の地上1.5メートルの高さの
温度を比較しました。
その結果、遮熱塗装をした方が気温が最大で3度低いことが
示されました。
さて、遮熱対策を適切に行うことで、
夏季の室内温度の上昇を抑え、
エアコンの使用電力を抑える効果が期待されます。
既存の建物でも遮熱塗装なら対策することが比較的容易です。
夏を快適に過ごすためにも、地球温暖化対策のためにも、
遮熱対策を検討してはいかがでしょうか。
【参考】
・日本遮熱株式会社 http://topheat.jp/thb/heat.html
・株式会社佐武 遮熱と断熱の違いについて
https://www.fsatake.co.jp/ref/
・サーモバリア 株式会社ライフテック
https://www.e-lifetech.com/thermobarrier/test.html
・日本ペイントの遮熱塗装の効果
https://www.nipponpaint.co.jp/thermoeye/factory/proof/index.html
・遮熱塗装の効果 https://miracool.jp/column/archives/117
この原稿は名城企画株式会社が発行する「名古屋・東海収益不動産NAVIメールマガジン」の
2020年9月14日発行分の転載です。