
不動産業界で2022年と言えば
「生産緑地の2022年問題」が控えています。
1992年12月4日から指定された生産緑地には、
税制優遇の代わりに30年の営農義務が課されました。
それから30年が経過した2022年12月4日に
多くの生産緑地の指定が解除され、
12月5日以降は自治体に買い取りの申し出ができるようになります。
その後、宅地に転用されて土地が市場に出回る可能性があります。
その結果、地価の下落を引き起こすことが懸念されており、
これが「生産緑地の2022年問題」です。
生産緑地とは
生産緑地は、1992年に生産緑地法で定められた土地制度の
ひとつです。
市街化区域内の農地で、良好な生活環境の確保に効用があり、
公共施設等の敷地として適している農地を指定するものです。
生産緑地に指定されるためには次の条件があります。
・市街化区域にある
・良好な生活環境の確保に相当の効用がある
・公共施設等の敷地として適している
・農林漁業の継続が可能である
・500平米以上(条例により300平米以上)の規模である
生産緑地に指定されると最低30年は農地・緑地として
土地を維持する代わりに税制優遇を受けられます。
2019年時点、全国で生産緑地は12,209haの面積が指定されています。
そのうち約8割の約10,000ha弱が1992年に指定された生産緑地です。
愛知県内には令和元年には7,826か所、1,502haの生産緑地があります。
生産緑地面積が広い自治体の順に、名古屋市252ha、一宮市125ha、
岡崎市84ha、西尾市62ha、豊田市49ha、小牧市47haです。
「生産緑地」の営農義務と税制面の優遇措置
「生産緑地」は営農義務が課される代わりに税制面の優遇があります。
1:30年間の営農義務
生産緑地は指定から30年間、農地として管理する必要があります。
またその土地には「生産緑地」である旨を掲示する必要があります。
2:相続税の納税猶予
相続や遺贈により生産緑地を取得した場合、
その取得者は「生産緑地分の相続税」の納税猶予を受けられます。
ただし、これはあくまでも「納税猶予」です。
生産緑地には終身の営農義務が課され、相続人が営農を廃止すると、
相続時までさかのぼって相続税が「さかのぼり課税」されます。
また猶予期間に応じた利子税まで支払う必要があります。
納税猶予された分の相続税の支払いが免除されるのは、
営農相続人が死亡した時のみとなります。
3:固定資産税の優遇
農地は宅地に比べて固定資産税が安く抑えられています。
しかし市街化区域内にある農地は宅地並みの評価がなされ、
固定資産税が高くなってしまいます。
それにより市街化区域内の農地の宅地転用を促すことが目的です。
大都市近隣の市街化区域農地は「特定市街化区域農地」に分類され、
通常の市街化区域農地(一般市街化区域農地)よりも
さらに高い固定資産税となります。
一方、生産緑地内にある土地については、
一般市街化区域農地と特定市街化区域農地のいずれも
「一般農地並みの固定資産税」に優遇されます。
生産緑地法の変遷
1972年に指定された生産緑地法は、時代により変化し、
単なる農地利用だけでなく、
いろいろなことができるようになりました。
2017年の生産緑地法の改正で農産物の販売・加工や
生産した農作物を提供するレストランの営業も可能になりました。
また、2018年の土地農地賃借法の制定により、
生産緑地を他人に農地として貸すことができるようになりました。
2017年の生産緑地法改正による特定生産緑地の指定
2017年に生産緑地法が改正され、
生産緑地の指定から30年を迎える土地について、
「特定生産緑地」への指定が認められることになりました。
これは、実質的に生産緑地の指定を10年間延長する制度です。
以降10年ごとの更新で、営農を続ける場合は
引き続き固定資産税や相続税の減税措置を受けることができます。
特定生産緑地の指定を受ける手続きは、
生産緑地指定から30年が経過する前に決める必要があります。
名古屋市では1992年から1994年に指定された
生産緑地の特定生産緑地指定の受付を、
2022年は1月24日から2022年4月8日に行います。
1995年以降に指定された生産緑地は、2023年以降順次受付を行い、
2023年は1月上旬から3月下旬に受付を行う予定です。
生産緑地の指定解除以降の選択肢
生産緑地の所有者は、生産緑地の指定解除以降、
どのような選択ができるでしょうか。
1:特定生産緑地に指定され営農を続ける
特定生産緑地に指定されるためには、
「市町村長が農地等利害関係人の同意を得て、
申出基準日より前に特定生産緑地として指定」される
必要があります。指定を受けて営農を続ければ、
引き続き税制の優遇を受けられます。
国土交通省が自治体に行った調査によると
1992年指定の生産緑地について2021年9月時点で
81%は特定生産緑地に指定される見込みのようです。
つまり全国で約8,000ha弱が特定生産緑地に指定される見込みです。
2:自治体に買い取りを申し出る・宅地などに転用する
生産緑地の指定が解除された後は随時、
自治体に買い取りの申出をすることができます。
自治体は買い取りを検討しますが、買い取らない場合は、
他の農業者へのあっせんを行います。
申出日から3か月以内にあっせんが成立せず、
所有権の移転が行われなかった場合は、開発行為の制限が解除され、
農地以外の宅地などへの転用が可能となります。
3:生産緑地を解除し、土地活用する
生産緑地を解除しても売却はせず、
所有者自身で土地活用することで収入を得ることができます。
アパートやマンション、高齢者施設などの利用が考えられます。
2022年問題の影響
特定生産緑地の指定を受けず、売却または土地活用される
生産緑地は、駅に近いなど、都心に通勤しやすく、
アパートやマンションの需要が期待できるエリアに多いと考えれます。
このようなエリアでは、2022年問題によって、
地価下落の影響が一定程度は表れると考えられます。
一方、都心に通勤しにくく、アパートやマンションの需要が
期待しにくいエリアの生産緑地は、
特定生産緑地に指定されるケースが多く、
2022年問題の影響は受けにくいと考えられます。
国土交通省が2021年9月に自治体に行った調査によると
1992年指定の生産緑地(1万ha弱)のうち
2割程度が特定生産緑地に指定されない見込みです。
概算では、2022年には全国で約2,000ha弱(東京ドーム430個弱)
の生産緑地が売却または土地活用される見込みです。
今後の土地活用においては、
周辺にある生産緑地の動向にも注意が必要です。
【参照】
・スマイティ 「「生産緑地」の2022年問題。その日が来る前に、
知っておきたいこと、考えておきたいこと」
https://sumaity.com/land_usage/press/389/
・スマイティ 「「生産緑地の2022年」のその後に悩まれる方へ、
土地活用アイデアをご紹介」
https://sumaity.com/land_usage/press/390/
・いくら不動産 2021年3月21日 不動産屋社長のためのnote
生産緑地の2022年問題とはなにかわかりやすくまとめた
https://iqrafudosan.com/channel/production-green-land-law-2022
・いくら不動産 2021年9月14日
不動産の重要事項説明書における「生産緑地法」とはなにか
https://iqrafudosan.com/channel/production-green-land-law
・特定生産緑地制度について
https://www.city.nagoya.jp/ryokuseidoboku/page/0000113960.html
・特定生産緑地指定状況(R3.9月末現在)国土交通省
https://www.mlit.go.jp/toshi/park/content/001423308.pdf
・特定生産緑地指定の手引き
令和3年6月版国土交通省 都市局 都市計画課公園緑地・景観課
https://www.mlit.go.jp/common/001282537.pdf
この原稿は名城企画株式会社が発行する「名古屋・東海収益不動産NAVIメールマガジン」の
2022年1月11日発行分の転載です。