
令和6年1月1日16時10分に石川県能登地方で発生した
M(マグニチュード)7.6の能登半島地震は、最大震度7を観測し、
北海道から九州地方にかけて広域に震度6強~1が観測されました
死者数200名以上、避難者14,000名以上、
全壊や半壊した建物は55,000棟以上と、甚大な被害が発生しました。
能登半島地震は、揺れによる家屋倒壊、液状化現象などにより、
建物にも大きな被害を及ぼしました。
気象庁は、M8~9クラスの南海トラフ地震が今後30年以内に
発生する確率が70~80%と、切迫性が高い状態としています。
また、直下型地震は日本中のどこでも発生する可能性があります。
そこで、今回のメルマガでは、能登半島地震で注目が高まった
建物の耐震性について解説します。
(液状化現象については改めて別の機会に解説します。)
地震の揺れによる建物の倒壊
能登半島地震では、揺れによって多くの住宅が倒壊し、
それが多くの犠牲者の死亡原因となってしまいました。
また、輪島市では7階建てのコンクリート製のビルが横倒しになった
様子をテレビなどでご覧になった方も多いと思います。
このビルは1972年の旧耐震基準時(後述します)に建てられたビルで、
今回の地震により、岩盤に打ち込んだ杭が建物の基礎から
抜けていたことが分かりました。
全住宅のうち建物の新耐震基準(後述します)を満たす住宅の割合を
「耐震化率」と言います。
全国の住宅の耐震化率は約87%(2018年度)ですが、
石川県は約78%(2015年推計)、輪島市は約45%(2022年度)、
珠洲市は約51%(2018年度)と全国平均より大幅に低い状況でした。
ちなみに愛知県は約91%(2020年度)です。
能登地方では高齢者だけで住む住宅が多いため、
建て替えや耐震工事がなかなか進まず、
多くの住宅が旧耐震基準の耐震性が低い状態のままになっていたことが、
家屋倒壊の被害につながってしまいました。
建物の耐震基準と耐震等級
建物の耐震基準には「旧耐震基準」「新耐震基準」「2000年基準」
の3つがあります。
・「旧耐震基準」は1981年5月以前に建築された建物に該当し、
「震度5程度までの地震で修復可能で倒壊しない」という基準です。
・「新耐震基準」は1981年6月以降の基準で建築された建物に該当し、
「震度6強~7で損傷を受けるものの倒壊はしない」、
「震度5強程度までは軽度な損傷程度で済む」という基準です。
・「2000年基準」は2000年の建築基準法改正をうけたもので、
木造住宅について地盤調査を行い、地盤の耐力に応じた基礎構造と
すること、筋交い金物や柱頭柱脚接合金物の使用の規定、
耐震壁の配置バランス、偏心率などの規定が定められたものです。
耐震性の指標としては「耐震等級」があります。
2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」
で定められたものです。
耐震等級1は、新耐震基準の耐震性能を満たす水準です。
耐震等級2は等級1の1.25倍の耐震性があると定義され、
「長期優良住宅」は耐震等級2以上が認定の条件とされています。
耐震等級3は等級1の1.5倍の耐震性があると定義されます。
災害時の救護活動・災害復興の拠点となる建物では
耐震等級3の建物が多く採用されています。
耐震等級が上がるほど柱や梁が太くなり、開口部が小さくなるなど、
間取りが制約され、コストも高くなります。
なお、新耐震基準以降に建築された建物では、
建物の耐震力を「保有水平力」という方法で測ります。
1981年以前の旧耐震基準で建てられた建物では、
Is値(鉄筋コンクリート造)・Iw値(木造)という指標で
耐震力を測ります。これらの詳細は割愛します。
今後、建物を購入・投資する際、またはこれから建築する際には、
新耐震基準(耐震等級1)を満たすことは最低条件として、
より耐震性が高い物件や建築方法を選ぶことが望ましいです。
なお、今回の能登半島地震では、本来なら倒壊しないはずの
新耐震基準を満たした家屋の倒壊も確認されました。
その原因は、複数回の地震によるダメージの蓄積です。
能登半島では近年、震度5クラスの余震とされる地震が頻発していました。
新耐震基準を満たしていても、複数回の地震のダメージに
耐えられるわけではないことは理解しておくべきです。
既存の建物の耐震補強
既存の建物が新耐震基準を満たしていない場合は、
まずは、建築士事務所などに耐震診断を依頼するとよいでしょう。
耐震診断は非破壊で目視によって行われ、
構造計算をして耐震性を評価し、耐震性を高めるために必要な
耐震補強の方法が提示されます。
主な耐震補強の方法としては、壁にパネルや筋交いを設置する、
壁、柱、梁の接合部分にアンカーボルトや補強金具で補強をする、
建物の基礎を補強する、一部の部屋をシェルターのように補強する、
といった方法もあります。
住宅の耐震診断や補強改修に補助金を出す自治体もあります。
愛知県では1981年5月より前に建築が始まった木造物件について
無料で耐震診断を受け付けており、耐震補強の補助金も用意しています。
さて、今回は能登半島地震を受けて、
建物の耐震性について解説しました。
南海トラフ地震や直下型地震はいつ来てもおかしくないため、
既存の建物の対策や建物選びに十分注意を払う必要があります。
【出典】
・日本ハウスHD 新旧耐震基準はどう違う?築年数との関係・
耐震基準適合証明書とは?耐震等級などとの違い
http://tinyurl.com/4z4z2sme
・ハウスメイキングラボ 耐震等級1・2・3でどう違う?耐震の基礎!
【2023年版】 https://www.saysinter.com/column/vol10/
・石川県耐震改修促進計画
http://tinyurl.com/mrm5knhh
・朝日新聞デジタル 古い住宅に甚大な被害…「命に直結」する耐震化、
対応を強化する県も 2024年1月23日 http://tinyurl.com/jhsdfp4e
・愛知県 住宅・建築物の耐震診断・耐震改修事業(補助制度)
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/jutakukeikaku/0000025466.html
・テレビ愛知 命を守る住宅の「耐震診断」 能登地震の発生で問い合わせ急増
「診断は無料、工事の補助金も」名古屋市 2024年2月3日
http://tinyurl.com/58nn6hca
この原稿は名城企画株式会社が発行する「名古屋・東海収益不動産NAVIメールマガジン」の
2024年2月19日発行分の転載です。