
2022年6月に建築物の脱炭素化に向けて、
「建築物省エネ法」や「建築基準法」などをはじめとする建築関連法が
改正され公布されました。
これらの法改正の背景として、わが国のCO2排出量(2019年度)のうち
およそ30%を建築物分野が占めています。
2030年度の温室効果ガス46%(2013年度比)排出削減、
および2050年の脱炭素(カーボンニュートラル)達成に向けて
建築物のCO2排出量を削減しようとするものです。
2025年4月から原則としてすべての新築の住宅、非住宅で
省エネ基準の適合が義務化されます。
また、省エネ・再エネ設備の設置促進や、木材の建築物への利用促進のため、
様々な新制度・制度改正が2025年4月までに段階的に施行されます。
本メルマガでは、改正建築物省エネ法・改正建築基準法について、
既に施行されている内容も含めて時系列に沿って2回に分けて解説します。
今回のメルマガでは2024年4月までに施行される制度について解説し、
次回のメルマガで2025年4月以降に施行される制度について解説します。
●2022年9月施行 フラット35の要件に省エネ基準適合が追加
住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」を利用するにあたり、
対象となる新築物件に「省エネ基準への適合」が加えられました。
2023年4月施行 住宅トップランナー制度の大規模分譲マンションへの拡充
住宅トップランナー制度は、一定以上の数の住宅を供給する建築主が
住宅の省エネ性能向上を促す措置として、省エネ性能の向上のための基準、
つまり「トップランナー基準」を定め、国土交通省がその基準に照らし、
必要に応じて省エネ性能の向上を勧告することができる制度です。
分譲規格型住宅の住宅トップランナー制度の対象は、
従来は年間150戸以上の建売戸建住宅、年間300戸以上の注文戸建住宅、
年間1000戸以上の賃貸アパートを供給する建築主だけでしたが、
2023年4月から年間1000戸以上を供給する大規模分譲マンションの
建築主が追加されました。
2023年4月施行 木材利用や再エネ利用を促進するための建築基準の合理化
木材利用や再エネ利用を促進するため、建築基準法の次の改正が適用されました。
・省エネ改修などの工事に際して、高さ制限を超えることが
建築物の構造上やむをえない場合には、市街地環境を害しないものに限り
高さ制限を超えることを可能とする特例許可制度を導入しました。
・屋外に面する部分の工事により容積率や建蔽率制限を超えることが
構造上やむを得ない建築物に対する特例許可制度を創設しました。
・機械室等に対する容積率の特例許可は、省令の基準に適合していれば、
建築審査会の同意なく特定行政庁が認定することにしました。
・住宅の居室に必要な採光に有効な開口部面積を合理化し、
原則1/7以上としつつ、一定条件のもとで1/10以上まで
必要な開口部の大きさを緩和しました。
・一団地の総合的設計制度・連担建築物設計制度における対象行為を拡充し、
現行の建築(新築、増築、改築、移転)に加えて、
大規模の修繕・大規模の模様替を追加しました。
2024年1月 住宅ローン減税における省エネ基準条件の追加
2024年1月以降に建築確認を受ける新築住宅の場合、
省エネ基準を満たすことが住宅ローン減税(借入限度額3000万円)の
条件に加えられます。
ただし、2023年12月31日までに建築確認を受けた物件、または
2024年6月30日までに竣工済の物件については、
従来通りの住宅ローン減税の対象となります。
この場合の借入限度額は2000万円となります。
なお、2022年から新築住宅の省エネ性能等に応じて、
住宅ローン減税の借入限度額の上乗せ措置が導入されており、
借入限度額は最大5000万円までが認められています。
2024年4月施行 住宅・建築物の販売・賃貸事業者の省エネ性能表示義務
住宅・建築物を販売・賃貸する事業者に対して、
住宅・建築物の省エネルギー性能を既定の「省エネ性能ラベル」を用いて
表示することが努力義務化されます。
この表示をしない事業者は勧告等の対象となります。
省エネ性能ラベルは、エネルギー消費性能(太陽光発電自家消費分を含む)、
断熱性能、年間の目安光熱費、ZEH水準およびネット・ゼロ・エネルギー水準
に該当するかどうかが表わされます。
2024年4月施行 建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度
市町村が建築物への再エネ利用設備の設置を促進する区域において
促進計画を作成し、次の措置が適用されます。
・条例で定める用途・規模の建築物の建築主に対して、
建築士による再エネ設備導入効果の書面説明が義務づけられます。
・市町村が建築主に対して、再エネ利用設備の設置に関する
情報提供や助言、その他の支援を行います。
・区域内の建築主は再エネ利用設備を設置する努力義務が課せられます。
・促進計画に定める特例適用条件に適合した再エネ設備を設置する場合、
建築基準法の容積率、建ぺい率、高さ規制などの特例許可対象となります。
2024年4月施行 木材利用や再エネ利用を促進するための建築基準の合理化
木材利用や再エネ利用を促進するための、建築基準法の次の改正が適用されます。
・延べ面積が3000平米を超える木造の大規模建築物について、
構造部材である木材をそのまま見せる工法(大断面製材など)
による設計が可能な新たな構造方法を導入します。
・階数に応じて要求される耐火性能基準を合理化し、
中層建築物への木材を利用しやすくします。
・耐火性能が要求される大規模建築物において、
壁・床で防火上区画された防火上・避難上支障のない範囲内で
部分的な木造化が可能になり、例えば複数にまたがるメゾネット住戸内の
中間床や壁・柱など、最上階の屋根や柱・梁などについて、
部分的な木造化を行う設計が可能になります。
・高い耐火性能の壁などや、十分な離隔距離を有する渡り廊下で、
分棟的に区画された建築物については、その高層部・低層部を
防火既定上の別棟として扱うことで、低層部分の木造化を可能にします。
・防火壁などで他の部分と有効に区画された建築物の部分であれば、
1000平米を超える場合であっても防火壁などの設置が不要になります。
・既存不適格建築物について、安全性の確保等を前提として、
増改築時等における防火・避難規定、接道義務、道路内建築制限が
適用される範囲の合理化を図ります。
・既存不適格建築物について、安全性等の確保を前提に
接道義務・道路内建築制限が適用される範囲の合理化を図ります。
さて、今回のメルマガでは脱炭素化に向けた
「建築物省エネ法」や「建築基準法」などの改正により
2024年4月までに施行される制度について解説しました。
2025年4月からは、原則としてすべての新築の住宅、非住宅で
省エネ基準の適合が義務化されます。
また、今後は新築物件だけでなく既存物件も含めて、
省エネ基準の要求が引き上げられることや、
木材や再エネの利用が一層促進されることが予想されます。
これらについては次回のメルマガで解説します。
【参考】
・国土交通省住宅局 「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」
(令和5年11月)
・国土交通省住宅局 「改正建築物省エネ法について」
(令和4年6月17日公布)
・日経アーキテクチャ 2023年2月9日号
この原稿は名城企画株式会社が発行する「名古屋・東海収益不動産NAVIメールマガジン」の
2023年11月20日発行分の転載です。