
2022年6月に建築物の脱炭素化に向けて、
「建築物省エネ法」や「建築基準法」などをはじめとする
建築関連法が改正され公布されました。
前回のメルマガに続き、今回のメルマガでは
2025年4月以降に施行される制度について解説します。
2025年4月施行 省エネ基準適合義務
・現行制度では、省エネ基準の適合義務は
300平米以上の中規模以上の非住宅の建物だけに課せられており、
300平米未満の小規模の非住宅の建物や、住宅については、
省エネ計画を所管行政庁への届出が求められてはいますが、
省エネ基準への適合は求められていません。
2025年4月から(2025年4月以降に工事に着手するものから)、
すべての新築住宅・新築非住宅に省エネ適合義務が課せられます。
省エネ基準に適合せず所管行政庁が必要と認める場合には、
計画の変更等の指示・命令が行われます。
さらに完了検査時には省エネ基準適合確認がなされ、
これに適合しなければ建物の使用ができません。
なお、次の建築物は適用除外となります。
-10平米以下の新築・増改築
-居室を有しないもの、または高い開放性を有することで
空気調和設備を設ける必要がないもの
-歴史的建造物、文化財等
-応急仮設建築物、仮設建築物、仮設興行場等
・省エネ適合性判定および建築確認の手順は次の通りです。
①建築確認申請(建築主が提出)
建築主は建築主事または指定確認検査機関に対して建築確認を申請します。
②省エネ適合性判定資料提出(建築主が提出)
建築確認申請が完了後、建築主は登録省エネ判定機関または所管行政庁に
省エネ適合性判定の資料を提出して審査を依頼します。
登録省エネ判定機関はこちらで確認できます。
一般社団法人住宅性能評価・表示協会
https://www.hyoukakyoukai.or.jp/shouene_tekihan/address.php
③省エネ適合判定通知書の交付(建築主が受け取る)
登録省エネ判定機関または所管行政庁が省エネ適合性判定を審査し、
建築物が省エネ基準に適合していると判断した場合は、
省エネ適合判定通知書を建築主に交付します。
④省エネ適合判定通知書の提出(建築主が提出)
建築主が建築確認申請を行った建築主事または指定確認検査機関に
省エネ適合判定通知書を提出します。
⑤確認済証の交付(建築主が受け取る)
建築主事または指定確認検査機関が建築確認および省エネ基準適合の確認
を行い、完了すると確認済証を交付します。
なお、住宅など「仕様基準」を用いることで審査が比較的容易な場合は、
上記②~④の手続き(省エネ適合性判定および省エネ適合判定通知書)
は不要となり、建築主事または指定確認検査機関が
建築確認および省エネ基準適合確認を行います。
・省エネ性能基準の適合について、
住宅の場合は「外皮性能基準」と「一次エネルギー消費量基準」に
適合する必要があります。
非住宅の場合は「一次エネルギー消費量基準」に適合する必要があります。
「外皮性能基準」は、「外皮平均熱貫流率」(ユー・エー値)と、
「冷房機の平均日射熱取得率」(イータエーシー値)により構成され、
外皮(外壁、窓等)の表面積当たりの
熱の損失量が基準値以下となることが求められます。
「一次エネルギー消費量基準」は、エアコン・暖房機器、換気設備、
照明設備、給湯設備、昇降機における一次エネルギー消費量が
基準値以下となることが求められます。
なお、太陽光発電等による創エネの自家利用分は控除されます。
一次エネルギー消費性能は「BEI値」で表わされ、
(BEI=「設計一次エネルギー消費量」÷「基準一次エネルギー消費量」)
これが1.0以下となることが求められます。
・省エネ基準適合義務は、増改築を行う場合にも対象となり、
増改築を行う部分が省エネ基準に適合する必要があります。
なお、修繕や模様替えは増改築に含まれません。
・省エネ基準への適合性審査を不要とする建築物が以下に限定されます。
(いわゆる「4号特例の廃止」)
-建築確認の対象外の建築物、つまり都市計画区域・準都市計画区域外の
建築物(平屋かつ200平米以下)
-建築基準法における審査・検査省略の対象である建築物
つまり都市計画区域・準都市計画区域内の建築物
(平屋かつ200平米以下)で、建築士が設計・工事監理を行った建築物
・建築主には、建築(新築、増築及び改築)をしようとする建築物において、
省エネ基準を上回る省エネ性能を確保するよう努力義務が課せられます。
また、建築士には、建築物の建築等に係る設計を行うときは、
その設計を委託した建築主に対し、建築物のエネルギー消費性能や、
その他建築物のエネルギー消費性能の向上に資する事項について
説明するよう努力義務が課せられます。
2025年4月施行 木材利用や再エネ利用を促進するための建築基準の合理化
木材利用や再エネ利用を促進するため、建築基準法の次の改正が適用されます。
・木造建築物についても非木造建築物と同様の規模で
建築確認検査や審査省略制度が適用されるようになります。
・小規模な伝統的木造建築物等について、構造設計一級建築士が設計または
確認を行い、専門的知識を有する建築主事等が建築確認審査を行う場合は、
構造計算適合性判定が不要になります。
・二級建築士が設計し建築できる建物は、高さ13m以下かつ軒高9m以下
とされていますが、高さ16m以下にまで拡大されます。
・2階建て以下の木造建築物で、構造計算が必要となる規模は
述べ面積が500平米を超えるものが対象とされていますが、
これを300平米を超えるものまでに引き下げられます。
さて、2回にわたり、脱炭素化に向けた建築関連法の改正として、
「建築物省エネ法」や「建築基準法」の改正などについて解説しました。
このような建物の省エネ化への要請はより強化されると見込まれます。
政府は「エネルギー基本計画」(2021年10月22日閣議決定)において、
「2050年に住宅・建築物のストック平均でZEH・ZEB基準の水準の
省エネルギー性能が確保されていることを目指す。」
「2030年度以降新築される住宅・建築物について、ZEH・ZEB基準の水準の
省エネルギー性能の確保を目指し、整合的な誘導基準・
住宅トップランナー基準の引上げ、省エネルギー基準の段階的な水準の
引上げを遅くとも2030年度までに実施する。」としています。
そのため、今後は新築物件だけでなく既存物件も含めて、
省エネ基準の要求が引き上げられることや、
木材や再エネの利用が一層促進されることが予想されます。
また、住宅の省エネ性能は、金融機関の投資・融資条件や、税制、
物件の売買にも影響を与えるようになると予想されます。
建物の省エネ性能はより重視されるようになることでしょう。
【参考】
・国土交通省住宅局 「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」
(令和5年11月)
・国土交通省住宅局 「改正建築物省エネ法について」
(令和4年6月17日公布)
・国土交通省 建築物省エネ法について https://tinyurl.com/2da82em8
・日経アーキテクチャ 2023年2月9日号
・環境・省エネルギー計算センター 「省エネ適合性判定(省エネ適判)
とは?費用や対象、必要書類について専門家が徹底解説」2023年7月12日
https://tinyurl.com/35yp8vhm
この原稿は名城企画株式会社が発行する「名古屋・東海収益不動産NAVIメールマガジン」の
2023年12月4日発行分の転載です。