
皆さんは建築物の「ZEB(ゼブ)」や「ZEH(ゼッチ)」について、
お聞きになったことがありますでしょうか。
これらは、不動産オーナーとしても知っておきたいテーマです。
今回はZEB、ZEHについて解説します。
ZEB、ZEHとは?
ZEBやZEHは、建築物の一次エネルギー(化石燃料や自然エネルギー)
の消費量が、正味(Net)でゼロまたは概ねゼロとなる建築物のことです。
ビルなど大規模な建築物はZEB(ゼブ:Net Zero Energy Building)、
住宅はZEH(ゼッチ:Net Zero Energy House)です。
ビルや住宅が、省エネ性能の向上、エネルギーの効率的利用、
創エネ(再生可能エネルギーの導入)によって一定の基準を満たすと、
ZEBやZEHとして認定されます。
新築だけでなく、リフォームによってZEBやZEHを認定された例もあります。
なお、ZEBやZEHが対象とする建築物や設備のエネルギー消費は、
人が居住する上で不可欠となる、空調・換気・照明・給湯・昇降機などの
エネルギーのみを対象とします。
オフィスのOA機器や事業用設備などのエネルギー消費や、
住宅のテレビ、冷蔵庫、その他家電製品のエネルギー消費は対象外です。
2022年6月17日に、改正建築物省エネ法が公布されました。
これにより、2030年度には、新築のすべての住宅・建築物に対して、
ZEH・ZEB水準であることが求められます。
さらに、2050年にはストック(既存の建築物)の平均で
ZEH・ZEB水準の省エネ性能実現を目指すとしています。
すでに大手メーカーが新規受注する注文住宅はZEHを達成するものが多く、
2020年には全国展開するハウスメーカーが新築する注文戸建住宅は、
56.3%がZEHを達成しています。
一方、一般工務店が新築する注文戸建住宅ではZEHの達成は9.5%であり、
全体の注文戸建住宅の平均は24.0%にとどまっています。
なお、積水ハウスでは新規の注文戸建住宅は9割以上がZEHを達成しており、
同社の試算では、夫婦と子ども1人の家族の場合、
ZEHを達成する新築住宅を建設すると建築費は200万円ほど高くなるものの、
年間光熱費は18万円安くなり約6割削減できるそうです。
ZEBとZEHの段階
ZEBとZEHにはそれぞれ段階が用意されています。
<ZEBの4段階>
ZEBには4段階が設けられています。
1.ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)
省エネ(50%以上)+創エネで100%以上の一次エネルギー消費量の
削減を実現している建物
2.Nearly ZEB(ニアリー ゼブ)
省エネ(50%以上)+創エネで75%以上の一次エネルギー消費量の
削減を実現している建物
3.ZEB Ready(ゼブ レディ)
省エネで基準一次エネルギー消費量から50%以上の
一次エネルギー消費量の削減を実現している建物
4.ZEB Oriented(ゼブ・オリエンテッド)
延べ面積10000平米以上で用途ごとに規定した一次エネルギー消費量の
削減を実現し、更なる省エネに向けた未評価技術を導入している建物
<ZEHの3段階>
ZEHには3段階が設けられています。
1.ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備を備え、
再生可能エネルギー等により年間の一次エネルギー消費量が
正味ゼロまたはマイナスの住宅
2.Nearly ZEH(ニアリー・ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
ZEHを見据えた先進住宅として、外皮の高断熱化及び高効率な
省エネルギー設備を備え、再生可能エネルギー等により
年間の一次エネルギー消費量をゼロに近づけた住宅
3.ZEH Oriented (ゼロ・エネルギー・ハウス指向型住宅)
都市部狭小地の住宅を対象とする、ZEHを指向した先進的な住宅として、
外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備を備えた住宅
(都市部狭小地では太陽光発電が十分機能しないことに配慮したもの)
さらに令和2年度には、ZEH設備のより効率的な運用等により
「ZEH+」と「次世代ZEH+」という区分も設けられました。
4.ZEH+
設計一次エネルギー消費量は、再生可能エネルギー等を除き、
基準一次エネルギー消費量から25%以上削減されていること。
さらに以下の2つ以上を導入していること。
・外皮性能の更なる強化
・高度エネルギーマネジメント
・電気自動車(プラグインハイブリッド車を含む)を活用した
自家消費の拡大措置のための充電設備または充放電設備
5.次世代ZEH+
ZEH+に加え、以下のうち1つ以上を導入していること。
・蓄電システム
・燃料電池
・V2H充電設備(充放電設備)
ZEBシリーズを認証取得した建築物と導入設備
ZEBシリーズを認証取得した建築物には、どのようなものがあり、
どのような設備を導入しているのでしょうか。
具体的事例をご紹介します。
・沖電気工業株式会社 本庄工場
2022年4月に埼玉県本庄市に竣工した工場新棟は、
エネルギー消費量を実質ゼロとする「ZEB」認証を、
大規模生産施設として国内で初めて取得。
生産の稼働状況に応じて照明や空調を制御して消費電力を削減し、
屋根に設置した太陽光パネルで発電する。
・須賀川土木事務所庁舎(福島県須賀川市)
2020年8月に竣工。一次エネルギー消費量の87%削減を実現し、
庁舎として東北初の「Nearly ZEB」認証を取得した。
地中熱交換機設備を導入して、夏は冷房、冬は暖房の熱源として
利用することで、空調効率を高めた。
手元の照明と部屋全体の照明を組み合わせることで
電気エネルギーを削減。
BEMS(ビル・エネルギー・マネジメントシステム)により、
室内環境とエネルギー性能の最適化を図る。
・松野町新庁舎及び防災拠点施設(愛媛県北宇和郡松野町)
一次エネルギー消費量削減率81%を達成し、
「Nearly ZEB」を認証取得。
高効率空調機器および高性能室外機を導入し、
地熱を利用する熱交換器の導入により冷暖房エネルギーを削減。
LED証明、Low-e複層ガラス、床吹き出し空調設備なども採用。
太陽光発電(80kW)および蓄電池を導入した。
・愛知県環境調査センター(名古屋市北区)
2020年竣工。建物の設計段階のエネルギー消費量を85%削減し、
公共施設で全国トップクラスとなる「Nearly ZEB」の認証を取得した。
温度帯や流量の異なる2種類の廃温水を効率的に回収する設備を導入。
太陽熱とガスマイクロコージェネレーションからの廃温水を個別に制御。
地下水を冷却水・熱源水として利用してエネルギー消費量を削減。
BEMSを導入。太陽光発電は2種類のソーラーパネルを導入。
・瑞浪市立瑞浪北中学校(岐阜県瑞浪市)
2020年2月に竣工され、「ZEB」認証を取得。
自然採光・調光照明設備により照明エネルギーを削減。
風の流れを踏まえた設計による換気・冷房エネルギーの削減。
太陽集熱・外皮断熱による暖房エネルギーの削減。
太陽光発電、風力発電、木質ペレットストーブを導入した。
ZEHシリーズ認証住宅に導入される技術
ZEHシリーズ認証住宅には、一般的に次のような技術が導入されます。
・断熱・遮熱・・・床、外壁、天井や屋根に、断熱・遮熱材を用いて
夏には日射熱等の侵入を防ぎ、冬には室内の熱が外へ逃げることを防ぐ。
・窓の断熱・・・複層ガラス、サッシは木製やプラスチック製。
・HEMS(ヘムス、Home Energy Management System)
家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム。
電気やガスなどの使用量を画面表示したり、家電を自動制御したりする。
・照明装置・・・消費電力の少ないLEDの採用
・冷暖房設備・・・冷暖房効率の高い高効率のエアコンの採用
・高効率給湯設備・・・ヒートポンプ式給湯器(エコキュート)や
家庭用燃料電池コージェネレーションシステム(エネファーム)
・太陽光発電システム・・・屋根にソーラーパネルを設置する。
・蓄電池・・・太陽光発電や家庭用燃料電池で発電した電力を蓄電する
・電気自動車を利用した充放電設備・・・EVに貯めた電気を利用して
住宅の電力消費を抑える。非常用電源として使用することもできる。
ZEHの補助制度
住宅の新築、新築建売の購入、既存住宅のリフォームの際に
ZEHシリーズを満たす住宅であれば、様々な補助制度があります。
環境省および一般社団法人環境共創イニシアチブの
「令和4年度 戸建住宅ZEH化等支援事業」では、
ZEH、Nearly ZEH、ZEH Orientedのいずれかを満たす住宅について、
様々な条件を満たす場合に、1戸当たり55万円を補助します。
ほかに、国交省の「こどもみらい住宅支援事業」の補助金や
住宅ローン減税もあります。
まとめ
改正建築物省エネ法によって、ZEBやZEH基準を満たす建築物が
いずれスタンダードになります。
不動産オーナーとしても、今後、建築物を新築やリフォームする際には、
ZEBやZEHの基準を満たすことが求められるようになることでしょう。
【参考】
・One Asia Lawyers 東京事務所 改正建築物省エネ法の概要
https://oneasia.legal/8617
・日本経済新聞電子版 2022年7月30日
省エネ住宅、減税・補助金をフル活用
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB218H60R20C22A7000000/
・環境省 ZEBポータル https://www.env.go.jp/earth/zeb/about/
・ZEHの定義(改訂版)<戸建住宅>平成31年2月
https://tinyurl.com/35c4rzcr
・OKIプレスリリース 2021年2月4日
https://www.oki.com/jp/press/2021/02/z20117.html
・日本経済新聞 2022年4月27日
OKI、埼玉・本庄工場に新棟 「ゼロエネ」実現
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2747L0X20C22A4000000/
・日経xTECH 2021年7月29日 木と鉄筋コンクリートの混構造ZEB
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00119/00094/
・パナソニック HEMSとは?
https://www2.panasonic.biz/jp/densetsu/aiseg/hems/about/
・日本ハウスHD ZEH住宅が注目される理由とは?
メリットからお得な補助金や申請時の注意点まで解説
https://www.nihonhouse-hd.co.jp/column/zeh-about/
この原稿は名城企画株式会社が発行する「名古屋・東海収益不動産NAVIメールマガジン」の
2022年9月20日発行分の転載です。